【本】屋上ミサイル(山下貴光)
第7回「このミステリーがすごい!」大賞(以下このミス大賞)で「臨床真理」(柚木裕子)と大賞を分け合った作品。はっきり言って伊坂幸太郎が高額の賞金(1200万円!)ほしさに別ネームで投稿したのかとマジで思った(笑)
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選評を読むまでもなく「伊坂幸太郎チック」な作品である。皮肉たっぷりで軽妙洒脱な会話劇、ピンチでもクールなジョークを飛ばすキャラクター、随所に覗かせる人間的優しさ、音楽、とぼけた文体……。特に主人公アカネの弟がロックについて熱く語る会話劇など激しすぎるデジャブだ。物語に漂うヘタレ感とクールさの配分も伊坂レシピに準じてる。この手の作品はどうしても伊坂幸太郎の劣化版で終わってしまうことがほとんどだが、さすがは大賞を受賞しているだけあってただのエピゴーネンとはいえない技巧を持っている。たしかに伊坂幸太郎だけど随所で彼をこえているんじゃないかと思わせるものがあった。
物語の発想が実にユニークだ。アメリカ大統領がテログループに拉致されてミサイルが東京に向けられいつでも発射できる状況の日本。終末的なセカイにおいて主人公である高校生たちは日常とさほど変わらない学園生活を送っている。そんな彼らの集合場所は学校の屋上。いつしか自分たちを「屋上部」と名付けて部員のトラブル解決に立ち向かうようになるというストーリーだ。
ミサイルが向けられているという緊迫した状況と高校生たちのすっとぼけた緊張感のなさが生み出す温度差がこの作品の持ち味となっている。その中でストーカーやら落とし物の拳銃やら不気味な殺し屋やらヘンテコな騒動に巻き込まれることになるが、ラストでバラバラだったそれらの騒動がひとつに収束していくというこれまた伊坂幸太郎が好んでつかう構成だ。
これは伊坂幸太郎本人の作品でも思うことだけど、出てくるキャラクターたち全員が個性的というか自己主張が強いので逆に互いの個性を殺し合ってしまっている気がする。声の大きな人間がひとりふたりならメリハリがあるけど、全員が全員が大声を上げていればうるさいだけだ。たとえば主人公であるヒロインのお父さんやお母さんといったちょっとしか顔を出さない人物ですらアクの強い存在感をみせる。会話劇も他のキャラ同様、一筋縄ではいかない。それぞれのキャラクターは容姿や性別などの違いはあれどメンタリティは同一だ。だからそれぞれのキャラクターに強い個性を持たせているわりに他の登場人物たちの中で埋もれているようなそんな気がした。こんなところまで伊坂幸太郎を再現しているとは!
選評を読むと予想通り評価は真っ二つだ。というかもうひとつの大賞作品「臨床真理」の方も見事に真っ二つ。そして面白いことに片方にAをつけた人はもう片方にCをつけている。四人の選考委員が2vs2に分かれての激論となるはずだったが収拾がつかないのは目に見えているので両方大賞受賞となったというわけである。ここはその激論をみせてほしかった。このミス大賞は作品そのものよりも選考過程の方が面白かったりする(笑) 今回はとことんつきつめて議論すべきだ。今回の大賞作品2つを読んで同時受賞はあまりに安直な選考だと思った。このミス大賞はただでさえその傾向が強い。むしろ大賞作品なしという英断も必要な回もあったのではないか。最近は注目されているし宝島社からすれば稼ぎコンテンツだから大賞ゼロという結果が好ましくないのは分かるが無節操に受賞を乱発すれば粗製濫造のイメージが強くなってしまう。数々の書評ブログを見ても「選評を真に受けるとがっかりする」というニュアンスの書き込みも多々見かける。
選考は完全にAとCで真っ二つだが個人的にはBかな。この二つの作品は美点と欠点の落差が大きすぎる。本作に限っていえば秀逸な会話劇、ユニークなセカイ設定に対する評価はできるけど、ミステリとして読むとかなり厳しい。とにかくあり得ないほどにご都合主義というか偶然に頼りすぎている。作者自身も自覚しているようでキャラクターの会話でそれを皮肉らせるなど確信犯的に開き直っているところがあるが、それにしてもちょっとヒドイ。ラストで怒濤のように今までのエピソードが収束するのだがそれに至るまでいったいいくつのあり得ない偶然が重なったのかもはや数える気にもなれないほどだ。
本来ならそこで本を放り投げてしまうところだが、キャラクターたちの会話劇が抜群に面白い。特に途中から姿を現すどこかすっとぼけた殺し屋のキャラは秀逸だ(といっても伊坂幸太郎の「グラスホッパー」に出てくる殺し屋を彷彿とさせる) 彼の存在がだれてきたストーリーに新たなる波を立たせている。逆を言えば彼の存在がかなったら退屈に終わってしまっていたかもしれない。
読み終わればそれなりに爽やかな青春物語という印象。青春ものなんだから登場人物の高校生たちに精神的な成長をみせてほしかったところだ。

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