シリアの花嫁 【称号:良作】

イスラエル占領下の村の女性モナが結婚式の日を迎える。しかし、シリアの男性の家に嫁ぐことは、彼女と家族の別れを意味していた。やがてシリアとの境界線に向かったモナたちはトラブルに見舞われる。(MovieWalkerより抜粋)
たかだか愛が国境なんて越えちゃあいけないよってマジメに思う僕が観てもこの映画には感動しました。それにしても中東は結婚ひとつとってもややこしい。しがらみ国家の集まりです。
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舞台はイスラエル占領下のゴラン高原。そこに住む妙齢の女性モナが結婚式を迎える。相手はシリアの人気コメディアン。これが日韓とか英仏とか米印だったらたいしてドラマにならないんだけど、なにかとややこしいしがらみでがんじがらめにされている中東では結婚ひとつとっても下手をすれば生死に関わる。
ゴラン高原はもともとシリア領だったが1967年の第三次中東戦争でイスラエルによって占領される。モナ一家はイスラムの少数派とされるドゥルーズ派だがイスラエルの占領によって無国籍となる。だから母国であるシリアに向かうにはパスポートが必要だし、一度その境界線をこえてしまうと戻ってくることはかなわない。たとえ肉親との行き来でも許されないのだ。だから彼らは境界線を挟んで拡声器で互いの近況を確認し合う。
シリアに嫁ぐということはモナにとって家族とは永遠の別れになってしまうのだ。だったらそんなシリア人と結婚なんてしなけりゃいいじゃんって話だが、どういうわけかその疑問については描かれない。モナにとって相手はテレビでしか観たことのないコメディアンなのだ。逢ったこともない男と結婚するために家族と生き別れになるなんて本末転倒だと思うのだが、これもお国柄なのかと無理やり納得するしかない。
物語は基本的にモナの結婚を主軸として展開していくが、登場人物が多く彼らの小さなエピソードも平行して描かれていく。97分とそれほど長い尺ではないのにそれぞれのキャラクターのエピソードがきちんと描かれていてそれぞれがラストできれいに収束する。実に優れた構成だ。
それにしても中東における紛争は国際レベルだけでなく庶民レベルにも反映されている。とにかく掟だの戒律だの礼節だのここに生きる人たちはしがらみでがんじがらめにされている。その掟を破れば破門されて村を出て行かなければならない。たとえばモナ一家の長男もそうだ。掟を破ってロシア人女性と結婚したものだから父親に勘当されてしまう。しかしその父親も息子の勘当は本意ではない。そうしないと長老たちがうるさいのだ。もし長男がモナの結婚式に参列するなら長老たちは欠席して父親とも縁を切るとまで言い出す始末。このくだらない掟を守らないと父親はこの村で生きていけない。
そんな父親もイスラエル政府からは反乱分子としてマークされている。だからモナの境界線での見送りに対する許可が出ない。彼にとってはモナとの今生の別れになる。そこで娘たちはイスラエル警察にかけあって許可を申請する。しかし彼らもなかなか首を縦に振ってくれない。さらにその境界線では事務手続きによる解釈の相違から花嫁の越境すら許可されないのだ。このままでは結婚式すら実現しない。この結婚だって数ヶ月またされて認可が下りたのだ。これ以上は待てねーよというわけである。
ここに出てくる人たち全員モナの幸せを心から祈っている。しかし彼らの思いも紛争や掟によって踏みにじられ振り回される。なんといっても国の事情によって家族が生き別れになるという理不尽。北朝鮮のように拉致されたわけでもない。彼らは大学に進学する、結婚するといった人間として当たり前のことでバラバラにされてしまうのだ。
この映画は終盤においてその真価を発揮する。それぞれのエピソードを重ねながら複雑な国家、家族関係を描きながらそれらが収束する終盤に感動コンボで盛り上がる。モナを失う深い悲しみが実はバラバラになりそうだった家族の再生につながっているのだ。モナにとっても新たな出発だが残された家族にとっても同じというわけだ。
しかしラストのラストでまたも理不尽がモナを襲う。失望にあけくれるモナが最後に自分の意志でとった行動がまた心を強く打つ。希望と不安の入り交じった彼女の表情が中東の未来を物語っているようでとても切ない気持ちにさせられてしまうのだ。多くの登場人物が出てくるのにひとりひとり実に魅力的に描かれていて好感が持てる。
また興味深いのがイスラエル映画なのに彼らに占領されるシリア人の視点から描かれているところ。モナの父親が立ち会うことを拒否したりイスラエル側の人間はシリア人たちに対して強圧的な態度をとっている。この映画を観る限りシリア人に同情的だ。しかしイスラエルが悪として描かれているわけでない。ラストの越境認可のドタバタ劇でシリア側の理不尽な対応に対して、イスラエル側は人間味あふれる粋な計らいをしてくれる。
というわけで期待ゼロでみた映画だが思いがけず泣かされてしまった映画だ。ミニシアターはこういう作品に出会えるから侮れない。(70点)

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