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チェチェンへ アレクサンドラの旅 【称号:佳作】

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チェチェン共和国の首都グロズヌイ。80歳の女性アレクサンドラが軍人の孫に会うため、ロシア軍の駐屯地を訪れる。兵士と同じテントに寝泊まりする彼女は、さまざまな人々との出会いを重ねていく。(MovieWalkerより抜粋)

こちらは久しぶりのロシア映画。「太陽」で昭和天皇を楽しく茶化してくれたアレクサンドル・ソクーロフ監督が紛争絶えないチェチェンでロケを敢行。戦地に孫に会いに行くおばあちゃんのお話です。
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せっかくだからチェチェン共和国についてちょっと勉強。この国はロシアの憲法上では連邦構成主体のひとつである。しかしチェチェン人はソビエト時代からロシアが大嫌い。長い間弾圧を受けてきたからだ。そこで「独立しちゃおうぜ!! 同志」というヤツらが出てくるのは自然の流れ。しかし相手は大国ロシア。「勝ち目がねーよ」と尻込みするヤツらもいる。そんな独立派と半独立派が喧嘩を始めちゃった。独立派は血気盛んなヤツらが多くてモスクワの駅やビルや地下鉄を爆破したりとやりたい放題だ。この紛争をうまーく利用してのし上がったのがエリツィンとかプーチンといわれる。戦争というのは時の権力者にとってステップアップできる実に都合のいいイベントだったりするのだ。ましてや「テロとの戦い」という大義名分は戦争したい病の権力者にとって伝家の宝刀である。かくして現地には軍隊が派遣され二度にわたる紛争で国民は家も家族を失い疲弊している。戦争の犠牲者はいつだって何の罪もない人たちである。どちらにしても民族紛争など根深い怨恨の歴史が発端となる戦争は泥沼化する。この紛争も例外ではない。余談だがこの紛争にはイスラム原理主義過激派の荷担も指摘されている。

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そんなロシア軍の駐屯地へ孫に会いにおばあちゃんがたった一人でやってくる。そんな話、あまり聞いたことがないけどロシアではよくあることらしい。それだけ紛争や戦争が日常なのだろう。このおばあちゃんにとって紛争の歴史や原因など興味の範疇ではない。ただ孫に会いたいだけだ。そんな彼女は軍事列車や装甲車で銃器で武装した兵士たちに囲まれまるで乗り合いバスに乗っているような感覚でやってくる。兵士たちもゆったりとしたおばあちゃんに苦笑しながら優しく見守っている。アメリカ戦争映画では見られないなんとも滑稽なワンシーンだ。

ここへやってきたのが「おばあちゃん」という設定が秀逸。これを母親にしちゃうとまた違う映画になっていたと思う。駐屯地には少年のような若い兵士ばかりだ。むせかえるような若い精気の放出にその場にいるだけで妊娠しちゃいそう。女はこのおばあちゃんひとりだけだ。もし彼女が母親だったら映像はさらにセクシャルな香りが色濃くなっただろう。若い兵士たちは彼女にどこか母性や郷愁を感じている。そんな彼らは何かとおばあちゃんに親切にしたがる。また母と子供より祖母と孫という関係の方が互いに客観視できる距離感である。孫から語られる母親とおばあちゃんの確執など2世代も離れると親子とはまた異なる思いのすれ違いも生じる。孫にとって祖母とは肉親というより親戚に近いのかもしれない。

おばあちゃんはそんな兵士たちを優しさ以上に厳しい目で見つめる。それは「戦争ばかりで建設をしない」紛争そのものに向けている。ロシア軍の駐屯地はアメリカのように物資が潤沢ではない。カラシニコフを分解整備するシーンを見ても彼らの装備がいかに消耗しているか分かる。装甲車にしてもハイテクで彩られた米軍のそれとはまるで違う。駐屯地の設備も衛生状態も劣悪でまるで収容所然とした環境におばあちゃんはこんなところで孫が命を賭けているという現状に途方に暮れる。兵士たちの士気もたるみっぱなしだ。まるでやる気のないボーイスカウトのキャンプ訓練みたいだった。

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やがておばあちゃんの視点は駐屯地の外に向かうようになる。そこはチェチェン人たちの市街地が広がっている。彼らの住むアパートや家屋は破壊されて瓦礫同然の建物で生活している状況だ。しかしそこに住む老女はおばあちゃんを温かく迎えてくる。疲れで動けなくなったおばあちゃんを自宅のアパートで休ませてくれるのだ。チェチェン人は自分たちを弾圧したロシア人を憎んでいないのかと思いきや、その情念はラストでさりげなく描かれる。手厚くもてなし別れ際に人が変わったように素っ気なくふるまうのが彼女たちのささやかな復讐なのか。また孫を含む若い兵士たちはおばあちゃんに別れ挨拶もそこそこに慌ただしく戦地に向かっていく。彼女の来訪は彼らに何ら変化をもたらさない。ただただ不毛な戦いや憎しみが続くだけだ。複雑な気持ちにさせられるラストである。

はっきり言ってかなり分かりにくい映画だと思う。だいたいタイトルにチェチェンと出ているからロシア軍がチェチェンに駐屯していると分かるくらいで劇中で地名や状況などの説明もない。また登場人物たちの微妙な言動もある程度現地の内情を把握していないと不可解かもしれない。優れた映画ではあるが遠く離れた平和の島国に住む僕たちは分かったふりをするのが精一杯だ。(61点)

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