グッド・シェパード 【称号:凡作】

第二次世界大戦中、軍の諜報部隊に所属したエドワードは、終戦後に創設されたCIAの一員となる。家庭をかえりみず仕事に没頭した彼は、ある事件の調査を進めるうちに、国を守るか家族を守るかの二者択一を迫られる。(MovieWalkerより抜粋)
アメリカ合衆国が誇るのぞきと盗み聞きのプロフェッショナル機関。あなたの恥ずかしいアレも彼らは知っています……。
CIAといえばスパイ。スパイといえばジェームス・ボンドみたいにどんなピンチに陥っても秘密道具を駆使して涼しい顔でくぐり抜け、アフターファイブは金髪美女とイチャイチャするというイメージですが本物のエージェントはマスオさんみたいに地味だったりする。主演のマット・ディモンは近日公開の『ボーン・アルティメイタム』でもCIAのエージェントを演じてますがこちらはバリバリのアクションヒーロー。この映画とはまるで対照的だ。

ボーンシリーズは同じCIAものでもファンタジーだが本作は徹底したリアリズムだ。脱サラしてスパイになりたいと思っていた人もこれを見るとドン引きしてしまうかもしれない。本物のスパイになるためにはまずは学業優秀じゃなければダメだ。老舗中古車屋を「しにせなかふるくるまや」なんて読む人は無理。
主人公エドワード(マット・ディモン)はイェール大学のエリート学生。エリートのみが入会を許される秘密結社『スカル&ボーンズ』の会員でもある彼はOSSの諜報部員としてリクルートされる。やがて戦争は終わりOSSはCIAへと変わり米ソとの冷戦に身を投じていくことになります。やがておとずれる世界を震撼させたキューバ危機。CIAの汚点ともいわれる「ビックス湾事件」の失敗原因の究明に乗り出したエドワードだったがその中で彼はとんでもない真相に直面するわけです。そんな彼の目を通してCIAとアメリカの現代史が描かれていきます。
CIAやエージェントが暗躍するけど基本的にはアクションゼロのお堅い社会派サスペンス。カストロと聞いて「ウンコ関係ですか?」なんて言う人は徹頭徹尾楽しめないから辞めた方がいいし、そもそもそういう映画じゃない。キューバ危機に対する最低限の知識は必要かな。そうでなくてもこの映画はふつうに見ていると特に陰謀関係において把握が難しい。1回の鑑賞ではすべてを理解するのは大変でしょう。
上映時間は約3時間。登場人物もわんさか出てくるしそれぞれが腹に一物を抱えているので相関関係が複雑だ。また日本人の目から見ると似たような風貌の外国人は見分けがつかないこともある。さらに時代が激しく前後するのでキャラが若返ったり老けたりしてさらに分かりにくい。その時代の背景を丁寧に綿密に描いているのは分かるけど明らかに脚本と演出に問題があると思う。あとから考えてみるとそこまで複雑な話でもないと思うが分かりにくい伏線が多すぎる。

とはいえディモン演じる主人公はやはりリアルだ。彼は自分の仕事のことを家族にすら話さない。だいたい女とはそういうことに理解を示さない生き物なのでおのずと夫婦間の溝は深まるばかり。しかし彼は愛する家族を犠牲にしてまで組織に忠実であろうとする。
冷戦というだけあって彼らのやり方は常に陰湿だ。敵スパイを拉致して拷問にかけたりデマを流して情報操作したりさまざまなトラップを仕掛けたり。真正面から突っ込んでドンパチするハリウッドのスパイ映画とはえらい違いだ。エドワードはもちろんCIA部員は常に監視されている。敵はもちろん味方にすら監視されているのです。エロ本の隠し場所だって報告書にばっちり記載されている(に違いない)
女性の好みも把握されてそんな容姿を持った女性スパイがハニー・トラップとして送られてくる。本作でもエドワードのみならずその息子までがトラップにかけられる。それにしてもエッチをさせてやると国家秘密をベラベラとしゃべってしまうなんて男とは哀しい生き物です。
そんな彼らの攻防が時間軸をシャッフルして描かれていくわけですね。60年代のシーンではマット・ディモンが成人した息子の父親となるわけですが全然見えない。母親役のアンジェリーナ・ジョリーもしかり。どう見ても30代だ。いちおう時代を示すテロップは表示されるが妙に若々しいエドワードを見ていると今がいったいいつの時代なのか混乱してしまう。無理してマット・ディモンにせず役者を変えてもらった方が良かった気がする。ただでさえ分かりにくいお話なのにこんなつまらないことでさらに混乱しちゃう。
興味深かったのはキューバ危機回避の真相。あれほど恐れたソビエトが実はただの張りぼての大国に過ぎなかったこと。見せかけの超大国だったわけです。あの時点でソビエトはアメリカを怯えさせるほどの軍事力は持っていなかったわけですね。しかしそれで困るのはCIAです。なぜならソビエトが脅威でなければCIAの存在意義がないからだ。日本のNHKみたいにいらない組織になってしまう。
というわけでいい意味でも悪い意味でも硬派。鳥越俊太郎氏あたりが知ったかぶって絶賛しそうな社会派です。世界情勢に強い関心を持つ人ではきっと分かり切ったことしか描かれていないだろうし、そうでない人には今ひとつ概要がつかみにくく3時間という上映時間もあって退屈に思うかもしれません。お勉強にはなるけど娯楽性はかなり希薄です。(51点)
人気ブログランキングへ投票お願いします!
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/223845/16847824
この記事へのトラックバック一覧です: グッド・シェパード 【称号:凡作】:
» グッド・シェパード [映画鑑賞★日記・・・]
【THE GOOD SHEPHERD】2007/10/20公開(10/20鑑賞)
CIA誕生のお話ときたら、スパイ映画好きはやっぱり気になる。でも・・・家庭は夫婦がスパイ同士ならうまくいくのかな。(おいっ) [続きを読む]
受信: 2007年10月23日 (火) 15時53分
» グッド・シェパード [Diarydiary! ]
《グッド・シェパード》 2006年 アメリカ映画 - 原題 - THE GOO [続きを読む]
受信: 2007年10月23日 (火) 19時50分
» グッド・シェパード [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
いくつの愛を失くせば、この国を守れるのか。
1961年、キューバのカストロ政権転覆を目論んだピッグス湾侵攻作戦がCIA内部の情報漏れで失敗し、指揮をとったベテラン諜報員エドワード・ウィルソンは窮地に立たされる。第二次世界大戦前夜、イェール大学在学中に秘密結社....... [続きを読む]
受信: 2007年10月25日 (木) 20時37分
» グッド・シェパード [ネタバレ映画館]
“グッド・シェパード”とは千昌夫の良き妻のこと・・・(うその情報です) [続きを読む]
受信: 2007年10月26日 (金) 22時15分
» グッド・シェパード [視人庵BLOG]
映画「グッド・シェパード」を視てきました。
この映画も「さらばベルリン」と同じように時代背景が解らないとストーリーも追いきれなくなる可能性があります。
ピックス湾事件なんて1980年以降に生まれたアメリカ人だと知らない人も多いでのは?
ストーリー的には第2次大戦中のO.S.S.の活動、冷戦時代のC.I.A.の逸話等を知っている人が観れば面白いと思います。
C.I.A.の対情報工作本部の責任者だったジェームズ・アングルトンがモデルといわれる主人公を、マット・ディモンが演じています。同じC.I.A.物... [続きを読む]
受信: 2007年10月27日 (土) 03時04分
» グッド・シェパード [アスカ・スタジオ]
名画座擬きの古い映画のレビューが続いたので、気分転換も兼ねて今日は映画館に足を運びました。この映画に対する事前知識はゼロでした。公開後5日目の映画です。纏まりのない内容になった場合はネタバレ留意もありご了承ください。
長時間の映画に拘わらずだれませんでした。1945年前後〜1960年前後を、秘密結社を絡ませ巧みに操る脚本(エリック・ロス)の滑らかさも一因でしょう。気を揉ませた冒頭父の遺言が最後迄私を引き付けました。ロバート・デ・ニーロ13年ぶり監督2作目らしいですが冴えの片鱗が覗いていまし... [続きを読む]
受信: 2007年10月27日 (土) 06時56分
» 愛国心の代償は、人の心を失う事●グット・シェパード [Prism Viewpoints]
いくつ愛を失くせば、この国を守れるのか。
CIA誕生にすべてを捧げた男の物語。
『The Good Shepherd』
グッド・シェパード - goo 映画
1961年、キューバのカストロ政権転覆を目論んだ、
ピッグス湾侵攻作戦がCIA内部... [続きを読む]
受信: 2007年10月27日 (土) 13時28分
» グッド・シェパード [マダムようの映画日記]
ーグッド・シェパードー
2006年 アメリカ ロバート・デ・ニーロ監督 マット・デイモン 、アンジェリーナ・ジョリー 、アレック・ボールドウィン 、タミー・ブランチャード 、ビリー・クラダップ 、ロバート・デ・ニーロ 、ケア・デュリア 、マイケル・ガンボン 、マルティナ・ゲデック 、ウィリアム・ハート 、ティモシー・ハットン 、リー・ペイス 、ジョー・ペシ 、ジョン・タートゥーロ 、ジョン・セッションズ 、エディ・レッドメイン 、オレグ・ステファン 、ガブリエル・マクト
【解説】
CIAの誕生をめ... [続きを読む]
受信: 2007年10月27日 (土) 13時49分
» 「グッド・シェパード」 THE GOOD SHEPHERD [俺の明日はどっちだ]
仕事と家族の狭間で揺れる主人公の葛藤を軸にCIA誕生秘話を壮大なスケールで描く製作総指揮にフランシス・フォード・コッポラを迎えたロバート・デ・ニーロ監督作品。
あえて例えるならば、まるでジョン・ル・カレあたりの分厚い上下巻に分かれたハードカヴァーミステリーを読んでいる様な気分。
167分という長尺ながら、決して退屈することなく観ることが出来たし、ジョン・タトゥーロやウィリアム・ハート、そしてアレック・ボールドウィンらの渋い演技、さらにはロバート・リチャードソンの素晴しいカメラワークによって見応え... [続きを読む]
受信: 2007年10月27日 (土) 14時15分
» グッド・シェパード [江戸っ子風情♪の蹴球二日制に映画道楽]
アメリカ
ドラマ&サスペンス
監督:ロバート・デ・ニーロ
出演:マット・デイモン
アンジェリーナ・ジョリー
アレック・ボールドウィン
ロバート・デ・ニーロ
【物語】
第二次大戦間近のアメリカ。イエール大学に通うエドワ...... [続きを読む]
受信: 2007年10月28日 (日) 00時27分
» グッド・シェパード [☆彡映画鑑賞日記☆彡]
『いくつ愛を失くせば、 この国を守れるのか。』
コチラの「グッド・シェパード」は、名優ロバート・デ・ニーロの監督2作目となる"CIA誕生にすべてを捧げた男の物語"で、10/20公開となっていたサスペンス・ドラマなのですが、観て来ちゃいましたぁ〜♪
製作総指揮...... [続きを読む]
受信: 2007年10月28日 (日) 21時51分
» 【2007-151】グッド・シェパード(THE GOOD SHEPHERD) [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
人気ブログランキングの順位は?
CIA誕生にすべてを捧げ
闇の中へ
<家族>と<組織>の間で
キューバ危機から冷たい戦争へ
いくつ愛を失くせば、
この国を守れるのか。
... [続きを読む]
受信: 2007年10月28日 (日) 23時14分
» ●グッド・シェパード(172) [映画とワンピースのこでまり日記]
マットの女装が見られるなんて!! [続きを読む]
受信: 2007年11月 1日 (木) 15時50分
» 【グッド・シェパード】 [+++ Candy Cinema +++]
【THE GOOD SHEPHERD】
監督 ロバート・デ・ニーロ 製作総指揮 フランシス・フォード・コッポラ
脚本 エリック・ロス 製作年度 2006年 日本公開 2007年10月20日
上映時間 2時間47分 製作国 ア... [続きを読む]
受信: 2007年11月 5日 (月) 21時25分
コメント
訪問有難うございます。
そちらの、「グッド・シェパード」論も拝見させていただきました。
ユーモアもあり、参考になります。
これからも、宜しく。
投稿: tk4982 | 2007年10月26日 (金) 20時57分
トラックバックありがとうございます。
かっこいいブログですね。イラストとかとてもセンスが良くて。
しかも,読み応えのある感想で,なるほど〜と感心しました。
称号も細かくて,わかりやすいです。
あたし的には「秀作」くらいあげたい気持ちです。
ミロの絵が掛かっているので,びっくりしました。
ミロ好きです〜。
投稿: はるちん | 2007年10月26日 (金) 22時11分
TBありがとうございました。
おしゃれなブログですね。
そして個性的なレビューと、辛口採点。
楽しませていただきました。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: マダムよう | 2007年10月27日 (土) 13時48分
●tk4982さん
こちらこそよろしくお願いします~。
●はるちんさん
秀作ですか。うーん、個人的にはちょっと硬すぎたかな。名古屋に山本屋のミソ煮込みうどんみたい(笑)
●マダムさん
こちらこそよろしくお願いします。本人は全然オシャレじゃないんですが……。ありがとうございました。
投稿: 管理人 | 2007年10月30日 (火) 12時42分